『ピラミッド帽子よ、さようなら』(理論社、1981)
著者 乙骨淑子(1929-1980)
絵 長谷川集平(1955-)
小学校卒業の少し前に、出たばかりのこの本を、東図書館で読んだ。とても面白かった。今みると随分長い本で、その当時最後まで読み切ったかについては、記憶が定かでない。
それ以来、時折思い出される、頭にあり続けた、気になる本だった。
(心にあった本のイメージは、ピラミッド帽子を頭にかぶった少年が、遠くに点滅する窓の光を眺めている図。)
私が子供の頃は、ピラミッドパワーやピラミッドの不思議ということが、雑誌や本、テレビで特集されていた。物が腐らないとか、方位磁石が狂うとか、頭がよくなるとか、とても興味深かった。
自分で、ピラミッドの模型を作って実験したこともあったと思う。
今回再読して、やはり引き込まれる面白さだった。主人公洋平は生き生きした、母親思いの中学生で、そのナレーションが弾んでいる。一方で、登場する少女は悲しげである。
はっきりした現実感・生活感覚があるけれど、こちら側とむこう側がクロスし、地下世界・アガルタに導かれていく。
今回初めて、作者の乙骨さんのご経歴や、この本が未完の絶筆であったことをなどを知る。
1929年のお生まれであるから、16歳で終戦をむかえている。
ピラミッド帽子にさよならを告げたのは、なぜだったのか。
生と死の秘密を、悲しいだけではない形で伝えようとする、青春の物語である。
(読了2024.1.21)